ウニ合宿を越えて人は大人になる。
8月24日(日)
部屋の隅で夜中に何やら不測の事態が発生していたようで、朝目が覚めると畳の上にダンゴ虫のように転がっているY嬢。そのY嬢の布団は、となりに寝ていたはずのコパパーゲ氏が悠々と占領している。「夜中に……夜中にコパ氏がものすごいスピードで回転してきて……そしておらの布団を……恐ろしかっただよ……うわっと思った時はおらは畳の上に放り出されていただよ……・」と、宇宙人にさらわれた人のようなことを懸命に口走るY嬢。その目は恐怖と寝不足のために赤く濁り、さらには全身の筋肉痛を訴えつつ、「コパ氏の寝相は悪いのではなく速い」という名言を残して再びの眠りにおちたのであった。
そのY嬢と、自らの招いた事態も知らずにサナギのように眠るコパ氏、そして「朝は食べない!」となぜか前夜から宣言していたMぐらさんを残し、朝食へ。バイキングとはいえ、非常に充実した料理内容に感激しつつ、もりもりと食す。なかでもYマシタ(妹)は、「おいしいよねえ」「本当においしいよねえ」「ちょっとおかわりしちゃおうかな」「これもすっごくおいしい」と絶賛しては、「あ、夢中になり過ぎてまた写真撮るの忘れた」ということを繰り返しており、前夜から続く悪夢より未だ目覚めていないようなのだった。早く彼女が現に戻れますように。またこの朝食の席では、唯一の人妻Nごちゃんが、「北海道では部活動(酒部・下戸部・デ部改めレプチン抵抗性部)の活動が大変活発であることに衝撃を受けた。かくなるうえは私も江戸に帰り、新しい部を創設してみなさんの入部をお待ちしたい。ついては既婚部などはどうだろう」と提案して、ずらりと並ぶ独身男女に「ケンカ売ってんのかオラ」と凄まれるという微笑ましいシーンも見られた。北と江戸との心温まる交流。
朝食後は海岸で人生について考える。とともに、「人はなぜ手にした手拭いを頭に巻きたがるのか」ということについても考える。もちろん答えは出ない。人生は正解のない長い旅なのよ、とおのれも頭に手拭いを巻きながら合宿所へ戻ると、そこはまだ布団の海。気だるい雰囲気が漂う部屋に寝転がりながら、「だからコパ氏のスピードは半端じゃないんですよ、あーもう身体痛てえわ」と始終ムッとした表情で菓子を食う人(Y嬢)、自分の荷物を背負いながら「荷物がない、荷物がない」と捜索に励み、それはウケを狙ってるのかそれとも老いなのかと周りを不安にさせる人(Mぐらさん)、「ねえ、俺のスボン知らない? 袋に入って、あの、ズボン、あの、青いの」と訊いただけなのに、「昨日、風呂に忘れたんじゃない?」「風呂だ風呂だ、ここにはないだろう」「だって見てないもん」「それ違うって! それ私の荷物!」「パンツで帰れば? もしくは丸出しで」「うひひ」などと散々に言われたあげく、見つけた瞬間には「あーもう!! 最初からちゃんと捜せよなー!! 人騒がせな!!」と全員から怒られている人(コパパーゲ氏)などを眺めていると、「生きてそして死にゆく我ら」という言葉が脳裏に浮かぶ。理由はよくわからない。
午前10時。合宿所出発。昼食のウニ様にお目通りする前に、身体を清めるべく温泉へ向かう。ものすごく塩辛い湯なのに、傷口にしみないという温泉マジックを体験。いやもうやっぱすげーな温泉と浮かれていたら、あやうく寝風呂で溺れそうになったことは一生の秘密にしておこう。今死んだら湯灌なしか? と思いつつ、二日間のウニ合宿で唯一の真顔の瞬間。
風呂後はいよいよウニ丼。昨夜のウニはムラサキウニだったが、今日こそはバフン。音の響きは悪いが味はいい。そう、このバフンのために一年間、つらい仕事も嫁姑の確執もじっと辛抱し、雨の日も風の日もひたすら畑を耕し、イギリス留学も涙をのんでとりやめ、ただ真っ直ぐに生きてきた私であったが、なんと「バフンウニは三人前しかありません」っておまえ私の一年間を返せーーーー! と叫ぼうと思った刹那、目の前でYマシタ(姉)が「ええええ! バフンウニないんですかあああああ!!」と本気の絶叫。それを見て、「あ、叫ばなくてよかった、こりゃ恥ずかしいわ」と思ったことも一生の秘密にしておこう。叱られるから。結局、バフンは内地組のみなさんに堪能していただき、我々道産子はムラサキウニを食す。ビールも飲んで、死ぬほど腹いっぱい。
なのに、この後ジンギスカンを食べに行くって正気ですか? どうやら正気らしい。私の乗ったアニキ号(アニキ・Hマダさん・Sまさん・私)では、目的に近づくにつれ健康不安説(いくらなんでもお腹いっぱいで肉など無理だろう)がささやかれはじめ、ついにはHマダさんがコパ号のY嬢に電話。「ねえ、今からジンギスカン食べられそう?」「大丈夫っすよ、肉なんて見ればなんぼでも食べたくなるもんなんですよ」って、だからY嬢に訊くバカがどこにいるか! あの人はなあ、数年前まで「胃もたれ」を「空腹」と勘違いしていて、「どんだけ満腹で寝ても朝にはおなか減ってて、変だなあと思いながら、お菓子とかカレーパンとかばんばん寝起きに食ってた」人間なんだぞ。そいつに訊いてどうする。というわけで私がYウさんに電話。「ねえ、今からジンギスカン食べられそう?」「あ……わかんないけど、横でY譲が、見れば食べられる、って言ってるから大丈夫かも」。もーうー喋るなーY嬢ー! あきらめきれずにYマシタ号のNごちゃんにさらに電話。「ねえ、ジンギスカン食べられそう?」「あ……Yマシタ姉妹は、全然余裕って言ってます」。世の中バケモノばっかりかーーー!
結局、三時のおやつにジンギスカン。何が悔しいって本当に「見れば」食べられてしまったこと。道産子魂が羊に反応したのか。ちくしょー旨めーじゃねーかー! と敗北感にまみれながら肉を食う。
もう本当にダメ、これ以上は空気も入らん。という満腹でいよいよ札幌へ。ここで内地組のYうさん、Sまさんとはお別れ。改札口で、しょんぼりと二人を見送る。外は日が暮れかかっているし風は冷たいしウニは終わるしお別れだし、寂しくって涙がでちゃう。だって女の子だもん。というわけで、居残り内地組のNごちゃんを囲んで居酒屋反省会に突入。本日四食目。いやもう腹いっぱいで酒にも酔わん。ふと見ると、下戸部のMぐらさんがまるで酔っ払いのようにテーブルに突っ伏しているではないか。彼女はジンギスカンを食べながら「これ以上は無理」とほとんど涙目で満腹を訴えていたのに、反省会に突入したとたん、おにぎり食いーの味噌汁飲みーの揚げ物食いーの刺身食いーのケーキ頼みーのと、八面六臂の大活躍。一体どうしたのだろうと思っていたら、「わたくし生まれて初めて、食べ潰れるという経験をしました。自分が何を食べたのか食べてないのか満腹なのかそうじゃないのか、すべてが今は謎です。苦しいのか苦しくないのかもわかりません。でも泥酔者の気持ちが初めてわかりました」と言い残して遠い世界へ行ってしまったよう。お元気で。
反省会は午後10時過ぎに解散。一足先に帰宅したアニキからのメール「あんたたちまだやってんのかい! はんかくさいねっ!」という言葉が胸にしみた帰路であった。
というわけで、参加者のみなさま、お疲れ様でした。来年もまた気が狂ったように食って遊んで笑いましょう。それまではつらい仕事も嫁姑の確執もじっと辛抱し、雨の日も風の日もひたすら畑を耕し、イギリス留学も涙をのんでとりやめ、臥薪嘗胆の日々をお互い送りましょう。ありがとうございました。
部屋の隅で夜中に何やら不測の事態が発生していたようで、朝目が覚めると畳の上にダンゴ虫のように転がっているY嬢。そのY嬢の布団は、となりに寝ていたはずのコパパーゲ氏が悠々と占領している。「夜中に……夜中にコパ氏がものすごいスピードで回転してきて……そしておらの布団を……恐ろしかっただよ……うわっと思った時はおらは畳の上に放り出されていただよ……・」と、宇宙人にさらわれた人のようなことを懸命に口走るY嬢。その目は恐怖と寝不足のために赤く濁り、さらには全身の筋肉痛を訴えつつ、「コパ氏の寝相は悪いのではなく速い」という名言を残して再びの眠りにおちたのであった。
そのY嬢と、自らの招いた事態も知らずにサナギのように眠るコパ氏、そして「朝は食べない!」となぜか前夜から宣言していたMぐらさんを残し、朝食へ。バイキングとはいえ、非常に充実した料理内容に感激しつつ、もりもりと食す。なかでもYマシタ(妹)は、「おいしいよねえ」「本当においしいよねえ」「ちょっとおかわりしちゃおうかな」「これもすっごくおいしい」と絶賛しては、「あ、夢中になり過ぎてまた写真撮るの忘れた」ということを繰り返しており、前夜から続く悪夢より未だ目覚めていないようなのだった。早く彼女が現に戻れますように。またこの朝食の席では、唯一の人妻Nごちゃんが、「北海道では部活動(酒部・下戸部・デ部改めレプチン抵抗性部)の活動が大変活発であることに衝撃を受けた。かくなるうえは私も江戸に帰り、新しい部を創設してみなさんの入部をお待ちしたい。ついては既婚部などはどうだろう」と提案して、ずらりと並ぶ独身男女に「ケンカ売ってんのかオラ」と凄まれるという微笑ましいシーンも見られた。北と江戸との心温まる交流。
朝食後は海岸で人生について考える。とともに、「人はなぜ手にした手拭いを頭に巻きたがるのか」ということについても考える。もちろん答えは出ない。人生は正解のない長い旅なのよ、とおのれも頭に手拭いを巻きながら合宿所へ戻ると、そこはまだ布団の海。気だるい雰囲気が漂う部屋に寝転がりながら、「だからコパ氏のスピードは半端じゃないんですよ、あーもう身体痛てえわ」と始終ムッとした表情で菓子を食う人(Y嬢)、自分の荷物を背負いながら「荷物がない、荷物がない」と捜索に励み、それはウケを狙ってるのかそれとも老いなのかと周りを不安にさせる人(Mぐらさん)、「ねえ、俺のスボン知らない? 袋に入って、あの、ズボン、あの、青いの」と訊いただけなのに、「昨日、風呂に忘れたんじゃない?」「風呂だ風呂だ、ここにはないだろう」「だって見てないもん」「それ違うって! それ私の荷物!」「パンツで帰れば? もしくは丸出しで」「うひひ」などと散々に言われたあげく、見つけた瞬間には「あーもう!! 最初からちゃんと捜せよなー!! 人騒がせな!!」と全員から怒られている人(コパパーゲ氏)などを眺めていると、「生きてそして死にゆく我ら」という言葉が脳裏に浮かぶ。理由はよくわからない。午前10時。合宿所出発。昼食のウニ様にお目通りする前に、身体を清めるべく温泉へ向かう。ものすごく塩辛い湯なのに、傷口にしみないという温泉マジックを体験。いやもうやっぱすげーな温泉と浮かれていたら、あやうく寝風呂で溺れそうになったことは一生の秘密にしておこう。今死んだら湯灌なしか? と思いつつ、二日間のウニ合宿で唯一の真顔の瞬間。
風呂後はいよいよウニ丼。昨夜のウニはムラサキウニだったが、今日こそはバフン。音の響きは悪いが味はいい。そう、このバフンのために一年間、つらい仕事も嫁姑の確執もじっと辛抱し、雨の日も風の日もひたすら畑を耕し、イギリス留学も涙をのんでとりやめ、ただ真っ直ぐに生きてきた私であったが、なんと「バフンウニは三人前しかありません」っておまえ私の一年間を返せーーーー! と叫ぼうと思った刹那、目の前でYマシタ(姉)が「ええええ! バフンウニないんですかあああああ!!」と本気の絶叫。それを見て、「あ、叫ばなくてよかった、こりゃ恥ずかしいわ」と思ったことも一生の秘密にしておこう。叱られるから。結局、バフンは内地組のみなさんに堪能していただき、我々道産子はムラサキウニを食す。ビールも飲んで、死ぬほど腹いっぱい。なのに、この後ジンギスカンを食べに行くって正気ですか? どうやら正気らしい。私の乗ったアニキ号(アニキ・Hマダさん・Sまさん・私)では、目的に近づくにつれ健康不安説(いくらなんでもお腹いっぱいで肉など無理だろう)がささやかれはじめ、ついにはHマダさんがコパ号のY嬢に電話。「ねえ、今からジンギスカン食べられそう?」「大丈夫っすよ、肉なんて見ればなんぼでも食べたくなるもんなんですよ」って、だからY嬢に訊くバカがどこにいるか! あの人はなあ、数年前まで「胃もたれ」を「空腹」と勘違いしていて、「どんだけ満腹で寝ても朝にはおなか減ってて、変だなあと思いながら、お菓子とかカレーパンとかばんばん寝起きに食ってた」人間なんだぞ。そいつに訊いてどうする。というわけで私がYウさんに電話。「ねえ、今からジンギスカン食べられそう?」「あ……わかんないけど、横でY譲が、見れば食べられる、って言ってるから大丈夫かも」。もーうー喋るなーY嬢ー! あきらめきれずにYマシタ号のNごちゃんにさらに電話。「ねえ、ジンギスカン食べられそう?」「あ……Yマシタ姉妹は、全然余裕って言ってます」。世の中バケモノばっかりかーーー!
結局、三時のおやつにジンギスカン。何が悔しいって本当に「見れば」食べられてしまったこと。道産子魂が羊に反応したのか。ちくしょー旨めーじゃねーかー! と敗北感にまみれながら肉を食う。
もう本当にダメ、これ以上は空気も入らん。という満腹でいよいよ札幌へ。ここで内地組のYうさん、Sまさんとはお別れ。改札口で、しょんぼりと二人を見送る。外は日が暮れかかっているし風は冷たいしウニは終わるしお別れだし、寂しくって涙がでちゃう。だって女の子だもん。というわけで、居残り内地組のNごちゃんを囲んで居酒屋反省会に突入。本日四食目。いやもう腹いっぱいで酒にも酔わん。ふと見ると、下戸部のMぐらさんがまるで酔っ払いのようにテーブルに突っ伏しているではないか。彼女はジンギスカンを食べながら「これ以上は無理」とほとんど涙目で満腹を訴えていたのに、反省会に突入したとたん、おにぎり食いーの味噌汁飲みーの揚げ物食いーの刺身食いーのケーキ頼みーのと、八面六臂の大活躍。一体どうしたのだろうと思っていたら、「わたくし生まれて初めて、食べ潰れるという経験をしました。自分が何を食べたのか食べてないのか満腹なのかそうじゃないのか、すべてが今は謎です。苦しいのか苦しくないのかもわかりません。でも泥酔者の気持ちが初めてわかりました」と言い残して遠い世界へ行ってしまったよう。お元気で。反省会は午後10時過ぎに解散。一足先に帰宅したアニキからのメール「あんたたちまだやってんのかい! はんかくさいねっ!」という言葉が胸にしみた帰路であった。
というわけで、参加者のみなさま、お疲れ様でした。来年もまた気が狂ったように食って遊んで笑いましょう。それまではつらい仕事も嫁姑の確執もじっと辛抱し、雨の日も風の日もひたすら畑を耕し、イギリス留学も涙をのんでとりやめ、臥薪嘗胆の日々をお互い送りましょう。ありがとうございました。


